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虎ノ門ならではのリーガルサービスを静岡から
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近時の新型コロナウイルスの感染拡大,それに伴う緊急事態宣言や,休業要請・営業時間短縮の要請などの影響により,売上が減少するなどして業績が悪化し,やむなく内定の取り消しを検討する企業も少なくありません。
ここでは,企業向けに,採用内定の法的性質や,内定取り消しが認められる事由,採用に関する法的な注意点について,解説します。
「内定」とは,法的には,求職者が企業から正式な内定通知を受け,求職者と企業の間で採用・入社の意思を確認した段階で,「始期付解約権留保付労働契約」が成立することを言います。
「始期付」とあるのは,労働契約が成立しているといっても,実際に入社し就労するのは入社日となるため,契約の効力発生の「始期」が付されているということです。
また「解約権留保付」とあるのは,内定者が仮に卒業することが出来なかった場合や,けがや病気などで正常な勤務が出来なかった場合など,入社までにやむをえない事由が発生した場合に,企業側が解約権を留保しているためです。
つまり,「始期付解約権留保付労働契約」は,一定の取消事由が生じた場合は解約できるという条件付きの労働契約であるのです。
上記のとおり,内定者と企業の間では,既に条件付きの労働契約が「成立」している,と判断されます。
そして,このような関係にある以上,企業が一方的に内定取消しすることは,解雇と同じ意味合いを持つこととなり,採用内定者の合意なしに自由に行うことはできません。
では,どのような場合に内定取消しが認められるのでしょうか。
判例では,以下の場合にのみ許されるものと解されています。
「採用内定当時知ることができず,また知ることを期待できないような事実であって,これを理由として採用内定を取り消すことが,当該解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合」(大日本印刷事件 最二小昭和54年7月20日) |
内定取消しが認められる具体的なケースには,次のようなものがあります。
【内定取消しができるケースの一例(内定者都合)】
・内定者が大学や学校を卒業できず,契約の前提となる条件を満たさなかった場合
・内定者が傷病により働けなくなった場合
・内定者が罪を犯した場合
・内定者が重大な虚偽申告を行った場合
・内定者が反社会的行為を犯した場合
【内定取消しができるケースの一例(企業都合)】
・企業の経営が悪化し,整理解雇が必要になった場合
整理解雇とは,会社が経営不振の打開や経営合理化を進めるために,人員削減を目的として行う解雇のことを言います。
整理解雇は使用者側の事情による解雇のため,解雇の妥当性が厳しく問われます。
整理解雇の要件については,法律には明文の規定はありませんが,裁判例上,以下の4つの基準に着目し,整理解雇が権利濫用となるかどうか判断されています。
①人員削減の必要性 ②解雇回避努力 ③人員選定の合理性 ④手続の妥当性 |
なお,近時の裁判例は,上記4つの基準を,ひとつでも欠ければ解雇無効と判断する「要件」とするのではなく,総合的判断における判断「要素」とし,上記基準を基に諸事情を総合的に考慮して,整理解雇が権利濫用とならないかどうかについて判断するものが多い傾向にあります。
上記のとおり,内定取消しが認められるのは,「解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当と是認できる」場合です。これに該当しない内定取消しは無効となります。
内定取消しが無効と判断された場合,内定者に従業員としての地位が認められるだけでなく,内定取消によって内定者が被った損害の賠償を命じられるケースがあります。
なお,採用内定の取消し事例が増加し,大きな社会問題となったことから,厚生労働省は公表基準に基づき,内定取り消しをした会社名を公表することができるものとしています(職業安定法施行規則第17条の4第1項の規定に基づき厚生労働大臣が定める場合(平成21年厚生労働省告示第5号))。
【内定取消し企業名の公表基準】
内定取消しの内容が,次のいずれかに該当する場合(ただし,倒産により翌年度の新規学卒者の募集・採用が行われないことが確実な場合を除く)。
①2年度以上連続で行われたもの ②同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの ③事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかには認められないときに行われたもの ④次のいずれかに該当する事実が確認されたもの ・内定取消しの対象となった新規学卒者に対して,内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき ・内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき |
企業側としては,人材を早期に,そして確実に確保したいと考えるのは当然です。
しかし,その一方で,早まって採用内定を出してしまうと,それを後から容易には取り消すことができない,という事態に陥ってしまいます。
このようなリスクを防ぐためにも,採用する企業側としては,事業計画の見通しを充分に行いつつ,過不足のない合理的な採用内定を出すことが重要といえます。
どういった人材を採用するかについては,一般的に企業に広い自由が認められています。すなわち,企業には,労働契約締結の自由,いわゆる「採用の自由」が認められており,どのような者をどのような条件で雇用するかにつき,法規に違反しない限り自由に行うことができます。
では,採用の自由に加えられる法規の制限には,どのようなものがあるのでしょうか。
具体的には,次のようなものが挙げられます。
事業主に対して,一定の雇用率以上の障害者を雇用することが義務付けられています。これを満たさない企業は,障害者雇用納付金を納付しなければならないとされています。
事業主は労働者の募集・採用に関して,性別にかかわりなく,均等な機会を与えることが義務付けられています。ただし,均等な機会を与えればよいのであって,採用人数を男女同数にしなければならない,という意味ではありません。
事業主は労働者の募集・採用に関して,年齢にかかわりなく,均等な機会を与えることが義務付けられています。ただし,以下のような場合には,例外的に,募集・採用に関して年齢制限をすることが可能とされています。
・定年年齢を下回ることを条件とし,期間の定めなく労働者を募集・採用する場合
・長期雇用を前提としたキャリア形成目的で,新規学卒者を期間の定めなく募集・採用する場合
・特定の年齢層の労働者が相当程度少ない場合に,その年齢層の労働者を補うために募集・採用をする場合
採用の自由の前提として,企業が採否の判断をするにあたって重要と考える事項については,労働者に質問をして回答を求めること,いわゆる「調査の自由」が認められています。
企業に調査の自由が認められるといっても,無制限に認められているわけではなく,法律による制限が存在します。したがって,労働者のプライバシーを侵害するような方法や態様で調査を行ったような場合は,不法行為(民法709条)に該当し損害賠償責任が発生する可能性があります。
募集・採用時の調査は,採否決定のために必要な範囲内で行い,またその方法も社会通念上適正なものであることが求められます。
また,プライバシー保護や個人情報保護の要請の高まりから,厚生労働省は,「労働者の個人情報保護に関する行動指針」を定め,企業の調査に対して一定の制限を設けています。
この指針は,あくまで情報収集についての行動指針であり,これに違反したからといって直ちに法的責任に結びつくものではありませんが,企業としては,コンプライアンスの観点から,調査時にはこの指針の基本原則を参考にすべきといえます。
「労働者の個人情報保護に関する行動指針」において,一定の場合を除き,禁止される調査事項には,次のようなものがあります。
【禁止される調査事項】
・労働組合への加入,労働組合活動に関する個人情報 ・医療上の個人情報 ・人種,民族,社会的身分,門地,本籍,出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項 ・思想,信条,信仰 |
上記のとおり,採用に関して,基本的には会社側に採用の自由が認められているため,これに基づく調査の自由があることをきちんと理解し,採用面接段階において適切な対応をすることが,後の労働紛争を未然に防止するのに有効です。
採用面接で不適切な質問や行為をしてしまった場合,労働問題の火種となることはもちろん,「ブラック企業」とみなされ,イメージ低下につながる恐れがあります。
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