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虎ノ門ならではのリーガルサービスを静岡から
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HOME > 解雇・問題社員への対処
問題社員とは,企業の外部や内部において問題行動を起こし,企業へ不利益をもたらす従業員のことをいいます。
企業は,問題社員に対し,戒告・譴責,減給,出勤停止,降格,懲戒解雇などの懲戒処分や,退職勧奨を検討することになりますが,懲戒処分や退職勧奨の判断や手続きの進め方には,慎重な対応が必要となります。特に,労働者への処分が重くなるほど,法律的な紛争に発展するケースが多くなります。
懲戒処分とは,使用者である企業が,従業員の職場規律・企業秩序の違反行為に対して科す制裁罰をいいます。
しかし,労働者が好ましくない行動をとれば,使用者が自由に懲戒処分をなし得るというものではありません。
懲戒処分を有効に行うためには,以下の要件を満たすことが必要です。
①周知された就業規則等に懲戒処分の根拠規定が存在すること ②従業員の非違反行為が就業規則等の懲戒事由に該当すること ③懲戒処分の内容に相当性があること ④手続に相当性があること |
企業が労働者を懲戒するためには,就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類を定め,当該就業規則が労働者に周知されている必要があります。ここでいう懲戒事由とは,例えば「重大な経歴の詐称があった場合」,「会社の業務上の秘密を外部に漏洩し,会社に損害を及ぼした場合」等のことをいいます。また,懲戒処分の種類とは,例えば,戒告や減給処分,出勤停止,降格,解雇といったものです。
就業規則における懲戒規定が,懲戒処分の法律上の根拠となるため,就業規則に懲戒規定がない場合や,周知されていない場合には,懲戒処分ができないことになります。
次に,懲戒処分の対象とされた従業員の行為が,就業規則等に定めた懲戒事由に該当し,懲戒処分を下すことに「客観的に合理的な理由」があると認められることが必要です。
相当性とは,端的に言えば懲戒処分が「重すぎないこと」です。つまり,違反内容と処分内容が均衡していることが必要とされます。
懲戒処分は,「当該懲戒が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする」とされています(労働契約法15条)。
「客観的に合理的な理由」があるというのは,解雇理由とされる事実が真に存在し,解雇を正当化するだけの理由が,外部から検証できる程度に裏付けられているということです。
また,「社会通念上の相当性」というのは,他の一般的な事案や処分と比較し,懲戒処分の内容・程度が厳し過ぎないか,充分な妥当性があるか,ということです。
懲戒処分は,懲戒事由とのバランスを慎重に判断しなければならず,一度の遅刻や些細なミス程度でただちに懲戒を科すのは懲戒権の濫用に当たると考えられています。
懲戒処分を下す際には,定められた手続きを経ていることも懲戒処分の有効性の要件とされています。すなわち,就業規則において,懲戒処分を下す場合の手順が明記されている場合にはこれを遵守する必要があり,また,このような規定がない場合でも,本人に弁明の機会を付与する等の最低限の手続は必要と考えられ,これが行われていない場合には,懲戒権の濫用と判断される可能性があります。
就業規則に一般的に設けられている懲戒処分の種類には,次のようなものがあります。
①戒告・譴責
戒告とは,口頭での注意によって将来を戒める処分をいい,譴責とは始末書を提出させて将来を戒める処分のことをいいます。
②減給
懲戒処分としての減給とは,事業主と労働者間で合意した賃金から一定額を差し引くことをいいます。減給による懲戒処分については,労働基準法による制限があり,1つの非違行為に対する減給は,平均賃金1日分の半額以下とせねばならず,同一の労働者による数回の非違行為があった場合に関しても,一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています(労働基準法91条)。
③出勤停止
労働契約はそのまま存続させ,労働者の就労を一定期間禁止する処分をいいます。出勤停止期間中は賃金が支給されないのが通常です。出勤停止期間の限度について,法律上の制限はありませんが,出勤停止期間が「無給」であることから労働者の被る不利益の程度は大きいため,出勤停止期間が長すぎる場合は懲戒権を濫用したものとして全部または一部が無効とされる可能性があります。
④降格
職位・役職などを引き下げることをいいます。なお,職務が変更することになれば当然に賃金が変動する職務等級制度等の賃金制度が採用されている場合,降格により労働者の賃金が引き下がったとしても,降格と減給の二重の処罰をしたことにはなりません。
⑤懲戒解雇
懲戒処分として,企業側から労働者を一方的に解雇することをいい,企業が労働者に対して行う懲戒処分の中でもっとも重い処分となります。懲戒解雇の場合,通常は解雇予告なくして解雇することができ,退職金の全部又は一部の支給がされないことが多いため,労働者にとって極めて重い処分に当たります。
懲戒処分の事由には,次のようなものがあります。
①経歴詐称
提出された履歴書や採用面接において,学歴や職歴,犯罪歴等の経歴に虚偽があり,または真実の経歴に関して秘匿があった場合で,それが重大な経歴に関する場合には,懲戒事由となります。重大な経歴に関するといえるか否かは,労働者の職種や詐称の内容によって具体的に判断されることになります。
②職務懈怠
無断欠勤や遅刻,勤務不良等,労働の遂行が不適切なことを職務懈怠といい,それが職場秩序を乱した場合には懲戒事由となります。
③業務命令違反
配転命令,出張命令,出向命令,時間外労働・休日労働命令への違反等,就業に関する使用者の指示命令に違反することは懲戒事由となります。業務命令違反としての懲戒処分の有効性判断に当たっては,そもそも業務命令が有効なのか,労働者が命令を遵守しないことにやむを得ない事由が存在したかどうかが検討されることになります。
④職場規律違反
暴行,横領,不正行為,ハラスメント行為等,労働者が守らなければならないルールに違反することを職務規律違反といい,懲戒事由となります。
⑤私生活における非行
私生活における犯罪等の非行行為を「私生活上の非行」といいます。職場外における業務に直接関係のない労働者の行為であっても,その行為が企業秩序の維持に支障をきたす恐れがある場合には,懲戒事由となります。
退職勧奨とは,企業が労働者に対して,労働者の自発的な退職を促し,労働者との合意により雇用契約を終了することを目指すことをいいます。
退職勧奨は,あくまで労働者側の自由な意思に基づく退職を促すものであるため,何らかの法的な効力が発生するものではなく,実際に退職するかどうかは従業員が決めることができます。
一方,解雇とは,企業側の一方的な意思により,労働者との間の労働契約を解約するものです。解雇は,使用者の一方的な意思により労働者の地位を奪いうる強力な権利であるため,労働者の反発を招きやすく,また,法律等の規制により,解雇が認められるケースは非常に厳しく限定されています。
このように,解雇に伴うリスクを避ける意図から,企業にとって,まずは退職勧奨という手段を用いることが有用な場合があります。
しかし,退職勧奨を行う場合,後に合意退職の無効や取消しを主張されたり,退職勧奨が不法行為に該当するとして損害賠償請求をされたりするリスクがあるため,使用者側は慎重に対応する必要があります。
すでに述べたとおり,退職勧奨は,労働者側の自由な意思に基づく退職を促すものであるため,企業側から強要するような形で退職勧奨を行った場合,違法な退職強制となる可能性があります。
違法な退職強制とされた場合,労働者の退職が無効となったり,企業が損害賠償の責任を負ったりするリスクがあります。したがって,退職勧奨の進め方には注意しなければなりません。
退職勧奨が違法となるケースには,次のようなものがあります。
・退職させるために,労働者を一人部屋に隔離し,仕事を与えないなどの対応をした場合 ・退職勧奨を多数回,長時間にわたって行った場合 ・「自ら退職しなければ解雇する」,「退職しなければ給与を支払わない」等,労働者の意思決定に不当な影響を与える言動をした場合 |
退職勧奨を行うにあたっては,退職するかどうかの選択は労働者側の自由であることを,きちんと理解してもらうことが重要です。
具体的には,以下の点を踏まえ,退職勧奨を実施することが望ましいです。
・多数人での退職勧奨の説得は避け,多くとも2人で行い,脅迫性のない雰囲気で行う。 ・面談時間回数は最低限にとどめ,1回あたりの面談が数時間に及ぶことがないようにし,就業時間中に行う。 ・場所は会社施設とし,従業員に電話したり,自宅へ押しかけたりするような行為はしない。 ・降格や減給など,不利益な措置を材料としない。 |
日本の労働関連の法令では,使用者の都合による一方的な従業員の解雇が認められることは非常に難しいといえます。訴訟に発展するリスクを防ぐためにも,懲戒処分・退職勧奨などの手続きを検討するという企業側の意向は現実的といえます。
とはいえ,懲戒処分・退職勧奨にも様々なリスクが潜在します。企業側が安易にこれらの手続きを行ったことにより,従業員との間で大きなトラブルになる可能性もあります。
懲戒処分・退職勧奨を検討されている場合は,お早めに弁護士にご相談いただき,適切な方法で進めていくことをおすすめいたします。